――今回、志倉さんには主に「アニメ化の意図」をお伺いしようと思うのですが、そもそも『ROBOTICS;NOTES』は、企画の最初の段階からアニメ化を想定していたのでしょうか?
志倉 そうですね。というか、そもそも"科学アドベンチャー"シリーズ自体、「アニメでやろう」とか「ゲームで作ろう」と思ってやっているわけではないんです。最初にぼくが原作を書くんですが、それがゲームになってもいいしアニメになっても、あるいはコミックやノベルの形でもいい。
――どういう形でアウトプットするかは構わないわけですね。
志倉 はい。入れ物はなんでも構わないんだけども、とはいえいざ社内で企画を動かそうと思うと、ゲームが一番動かしやすい。それゆえに"科学アドベンチャー"シリーズは、まずはゲームから始まってる、ということです。だから次の第4弾は、もしかするとアニメから始まるかもしれない――といいながら、たぶんゲームになると思うんですけど(笑)。
――では、今回のアニメ化が決まった経緯というのは?
志倉 まず前作の『STEINS;GATE』が発売後、大きな反響をいただいたおかげで、「アニメ化したい」というオファーをたくさんいただいたんです。ありがたいことなんですけども、いくつもいただいたオファーのなかからひとつに絞らざるをえなかったという状況があった。それを踏まえたうえで、今回、『ROBOTICS;NOTES』を立ち上げてすぐの段階で、以前、声をかけていただいた方たちと話をする機会があったんです。まだ発売の1年以上前の段階で、興味を持っていただいて、そのときからすでに取り組みが始まったという感じです。フジテレビの山本(幸治)プロデューサーからも、その時点でお話をいただきました。「これはノイタミナ向きだ」と(笑)。
――ある程度、アニメ化を前提に制作が進んだ部分もあるんですね。
志倉 そうですね。アニメ化を前提にすることで、いろんなメリットもあるんです。例えば、アニメの場合はゲームよりも、いろんなアングルで撮ることができる。「アニメではきっと、こういう表現になるんだろうな」ということを、妄想しながらゲームを作ることができる。ゲームではこういう表現なんだけど、アニメならきっと、ここはこうなるんだろうな、とか。そういう妄想をしながら、制作を進めていった感覚はありますね。
先ほど"科学アドベンチャー"シリーズは、メディアに関係なく展開しているというお話がありましたが、逆にこのシリーズならではの、核になっている部分はどこなのでしょうか。
志倉 まずひとつは、敵が一緒であることですね。シリーズ第1作の『CHAOS;HEAD NOAH』のときから、陰で暗躍している組織が存在している。彼らが敵になる、というのは共通しています。あと『ROBOTICS;NOTES』には「世界を救うのはヒーローじゃない――オタクだ。」というキャッチがついてるんですが、そうやって考えてみると、過去のシリーズ作はみんな、主人公がオタクなんですよね。そこもわりと重要なテーマになってきているかな、と思います。あくまでも一般人の主人公が、ある出来事をきっかけに大きな事件に巻き込まれていく。そこの部分が面白いのかな、と。
――あとこのシリーズは"科学"と銘打たれているように、さまざまな先端科学をモチーフに取り入れていますよね。
志倉 『CHAOS;HEAD NOAH』の場合は"脳科学"ですね。あの作品は「妄想をどう具現化するか」というのがテーマなんですけども、科学で言えば"脳科学"の領域に属します。他人の脳になんらかのバグを送り込むことができたら、どうなるのか? 例えばぼくがリンゴを妄想したとして、その妄想を他人の頭のなかに送り込むことができれば、その人もリンゴが見えてしまう。そういう形で、妄想を現実にしてしまうわけです。
――続く『STEINS;GATE』は時間・物理科学がモチーフでした。
志倉 そもそもタイトル自体、アインシュタインから来てるんですけども、時間についてはいろんな人が定理を考えている。例えば、時間を越える定理が11個あったとして、12番目が発表されたとしたら――もしかしたら、人間じゃない何かであれば時間を越えることができるかもしれない。そういうことをモチーフにしたのが、前作『STEINS;GATE』でした。で、今回の『ROBOTICS;NOTES』の場合は"拡張現実(AR)"と"ロボット"。そもそも最初は"ロボット"をモチーフにすることに対して「ベタだな」と思っていたんです。
――王道中の王道ですよね。
志倉 と同時に、もうひとつ候補として考えていたのが"AR"だったんですけども、このふたつを足し算すると、ちょっとピントがズレてしまうんじゃないか、という感じもあった。それで悩んでいたんですけども、そのときにふと「コレジャナイ感満載のロボットなんだけど、ARを通して見ることで全然違う感じに見える。それだったら、面白いんじゃないか」と。あと、ロボットを作るときには設計図というかマニュアルがあって――実際、ぼく自身もロボットを作ることがあるんですけど、マニュアルだとちょっと角度が違ったり、わかりずらい部分がいろいろある。でも例えば、ARでマニュアルを透かして見ると「なるほど、こうなっているのか」と。そういう仕掛けが直感的、視覚的に理解できるんじゃないか、と思ったんです。
――なるほど。それが劇中に出てくる「君島レポート」のアイデアに繋がっていくわけですね。
志倉 設計図なんだけど、それが何の設計図なのかはわからない。その妄想から今回の『ROBOTICS;NOTES』は始まっているんです。
科学アドベンチャーシリーズ第一弾「CHAOS;HEAD」テーマは"脳科学"
科学アドベンチャーシリーズ第二弾「STEINS;GATE」テーマは"時間物理"
科学アドベンチャーシリーズ第三弾「ROBOTICS;NOTES」テーマは"AR(拡張現実)"と"ロボット"
――あと『ROBOTICS;NOTES』といえば、舞台が種子島だというのも大きいですよね。アニメ版のキービジュアルも、爽やかな青空が印象的です。
志倉 もともと最初は1作目の『CHAOS;HEAD NOAH』が雨、次の『STEINS;GATE』が曇りだったので、「次は晴れがいいよね」というところだったんです。でもそうするとテーマが青春になったり、青春といえば高校生、高校生といえば部活だよね……みたいな感じで、どんどん妄想が広がっていく。ただ意外と「青春モノというだけではないぞ」というところが、この作品で。この青空に騙されるな(笑)、ということだと思います(笑)。
――今回のアニメ化に際して、志倉さんはどのような関わり方をしているんでしょうか?
志倉 基本的には脚本とコンテのチェックですね。「ここはちょっとこうじゃないかな」というところをお伝えする感じで。もともとぼくは、あまりヤイヤイ言う方じゃないんですよ。もちろん最初の原作のときには、脚本の林と一緒にすったもんだするんですけど、いざ作品が世に出た後は、あまり言わない。わりと自分 ちの方がいいわけで。ちょっとでも悩むのであれば、お任せしちゃおうというスタンスです。
――志倉さん自身にとって、アニメ化のときのポイント、面白味というのはどういうところにあるのでしょうか。
志倉 やっぱり「動く」っていうところですね。視聴者にとって、アニメは「動いて当然」なんですけど、ぼくたちにとっては「動くって、いいな」と(笑)。それこそゲームでも、最初から最後まで動くのが理想なんですよ。ただ、今のアドベンチャーゲームは最低でも、30時間くらい遊べるのが普通で――30時間分のアニメを作るのは、非常にハードルが高い。今回の『ROBOTICS;NOTES』で、キャラクターの表現に3Dを取り入れたのも、そういう「動かしたい」という欲望があったからなんですよね。だから今回のアニメで、例えばガンつく1が動く瞬間が、どんな"熱い"シーンに仕上がっているのか。すごく期待しています。ゲームでは、動くといってもたいして動かすことができなかったので(笑)。
――では最後に、これから本作を見る人に期待のポイントを教えてください。
志倉 やっぱりフラウたんですね。最初は気持ち悪いんですけど、だんだんと見ているうちに慣れてきて、そこが気持ちよさに変わってくる(笑)。「キモカワいい」って言葉がありますけど、フラウたんだけに使える、そういう言葉がないかな、と。ぜひ「キモカワ」なフラウたんを見てください(笑)。
ゲーム 『ROBOTICS;NOTES』より